平成29年5月16日
甲状腺は喉元にありホルモンを作る臓器です。甲状腺の病気には甲状腺のホルモンの増加や減少(機能障害)を起こす病気と、できもの(腫瘍)の病気の2つのパターンに分けることができます。甲状腺の病気は男性にも起こりますが、女性により多く認められます。
甲状腺ホルモンの増加減少を起こす病気で有名なものは、増加するバセドウ病(グレーブス病)と、減少する橋本病です。余談ですが橋本病は日本人(橋本策 博士)が発見した病気です。甲状腺ホルモンは体の新陳代謝を促進する働きがあり、増加減少により症状が現れます。橋本病やバセドウ病は自己免疫疾患に分類され、本来ならば体外から体内に侵入した異物を攻撃するはずの"抗体"が自分の体の成分を異物と誤認し攻撃することが原因です。
甲状腺のできもの(腫瘍)の病気については検査で見つかるものの多くが良性腫瘍ですが、時に悪性腫瘍(いわゆる癌)が見つかることもあり注意が必要です。
1 橋本病
自己免疫疾患の一つです。橋本病に特徴的な抗体は"抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体"と"抗サイログロブリン抗体"です。橋本病ではこれらの抗体が甲状腺を攻撃し炎症が起こるため慢性甲状腺炎とも呼ばれます。はじめは甲状腺が腫大しますが、長期間経過すると甲状腺が破壊され、線維化を起こし小さく硬くなっていきます。ただし個人差が大きく経過を通して大きな変化を認めない人もいます。甲状腺が破壊されると甲状腺のホルモンを作る力が失われ機能低下症に陥ります。
甲状腺ホルモンが不足すると
- 気力が出ない
- 疲れやすくなる
- 目の周りがむくむ
- 寒がりになる
- 体重が増える
- 動作がゆっくりになる
- 寝ていることが多くなる
- 記憶力が低下する
- 便秘気味になる
- 声がかすれる
- 血液検査でコレステロールやCKが高くなる
などの症状が出現します。長期にわたり極端に甲状腺ホルモンが低下した状態が続くと心不全が起こることもあります。また自己抗体により引き起こされると考えられている意識障害などの中枢神経症状を認めることがあり橋本脳症とよばれます。
橋本病の治療ですが、抗体を減らす治療法はなく、必要に応じて甲状腺ホルモン剤の内服による補充療法を行います。したがって抗体があっても甲状腺ホルモンが低下していない場合は治療の必要はありません。ただし甲状腺が非常に大きい場合は甲状腺腫の治療として甲状腺ホルモン剤の内服治療を行うことがあります。
2 バセドウ病
自己免疫疾患の一つです。橋本病に特徴的な抗体は"抗TSHレセプター抗体"と"TSH刺激性レセプター抗体"です。バセドウ病では抗体が甲状腺を破壊するのではなく、刺激することにより過剰にホルモンが作られてしまいます。
甲状腺ホルモンが過剰になると
- 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加
- びまん性甲状腺腫大
- 眼球突出
- 体重減少
- 怒りっぽくなる
- 暑がりになる
- 下痢気味になる
- 血液検査でコレステロールが低くなる
などの症状があります。特に 1 ~ 3 をバセドウ病の三大徴候と呼びます。
バセドウ病の治療には薬物療法と手術療法、放射線療法の3種類があります。バセドウ病についても抗体を減らす治療法はなく、甲状腺ホルモンを正常にすることが治療の目標になります。
日本では、ほとんどの場合まず薬物療法が行われます。薬物療法にはチアマゾールとプロピルチオウラシルの2種類があり、妊娠や副作用による問題がない限りチアマゾールが第一選択になります。手術療法は甲状腺の一部を切除減量するため即効性が期待されます。放射線治療は放射性ヨウ素の治療薬を飲むだけで大変簡単ですが、効果には個人差があり薬の量を多くすると甲状腺の働きが低下し甲状腺機能低下症の状態になります。
3 甲状腺腫瘍
超音波で甲状腺の内部を検査すると、腫瘍を認める方が比較的多くいらっしゃいます。そのほとんどは良性の腫瘍であり治療を要しませんが、まれに悪性腫瘍(甲状腺がん)のことがあり注意が必要です。特に腫瘍の大きさが2㎝を超えるときは、一度はがんでないか細胞を取って検査する必要があります。2㎝未満の場合でもがんを疑うときは同じように細胞を取ってきて検査をするほうが望ましいと考えられます。甲状腺がんは一部を除き非常に進行が緩やかであることが多いため、内部に腫瘍を認めたときは小さくても長期間にわたって変化がないか定期的に検査を続けることが重要と考えられます。